「KUNI」について リチャード・マッカーシー (全米スローフード協会代表)
Richard McCarthy
In all of my travels, I’ve rarely encountered a project that is deeply grounded in place, providing substantial services to people in need. But to make things even more compelling, the Kamiechigo Yamazato Fan Club’s RMO (=KUNI) also provides a philosophical grounding that asks big, deep questions about the appropriate scale of a community, the delivery of services, and the necessary preconditions for democracy.
これまで多くの旅をしてきたが、その土地に深く根付いて、住民のニーズに対して実質的なサービスを提供しているような活動に接する機会にはなかなかお目にかかれないが、KUNIと称しているRMOの形は、地域コミュニティの適正規模、サービス提供のありかた、そして民主主義の必要条件といった大きく、深い問いを発する哲学的な基盤さえも提示しているという点で、より説得力のある概念である。
クニを目指すには
【地域住民・活動組織】
まず、地域住民は地域が置かれている現状を直視する必要があります。
産業や人口などの近未来予測や、文化民俗などの消滅速度など、データに基づいて危機意識を共有し、「行動を起こした場合と、起こさなかった場合の近未来」を冷静に予測した上で、有効な対応策を打ち出す必要があります。その場合、甘い推測はすべて排除した上で対応を模索することが重要です。また、情緒的な意見が支配的にならないように抑制する必要があります。しかし地域維持や再生に関わることの出来る住民は限られているという現実も認識する必要があります。そのような認識の上で、地域再生に関する住民の参加意識は、以下の5段階になります。
①地域再生活動には無関心 → ②地域再生活動の許容 → ③地域再生活動への支持 → ④地域再生活動への参加 → ⑤地域再生活動の主体化。
この場合重要なのは②「活動への許容」と、③「活動への支持」です。メディアでは、④「活動への参加」や、⑤「活動の主体化ばかりが取沙汰されますが、直接活動には関与は出来なくても、住民の大部分が「許容」及び「支持」の意識を持つことこそ重要です。
さらに再生活動においては、広い視野を持ち、都市側から自分たちが「どのように見えているか」という視点も重要です。その上で、小規模コミュニティの長所である「協力・助け合い・自主性・自給性」を伸ばし、逆に、短所である「排他性・束縛性・井蛙性」を減少させようという認識が必要になります。
また、経済の自立なき組織の自立はありませんので、活動団体は、諸契約行為が可能な法人であり、「経営」が可能な組織である必要があります。
さらに、主に行政側に言えることですが、現在行われている地域活動支援や地域再生活動支援が、継続する未来へ向けた活動なのか、縮小、消滅までの痛みを和らげる活動なのかを冷静に直視する必要があります。「痛みを和らげる」=「ホスピス型」は、それが「ホスピス型」であることを認識した上で行われるのなら、ひとつの有用な手段となります。しかし、「ホスピス型」であることを隠蔽し、地域住民に対し、あたかも継続する未来へつながる活動であるかのように思わせることは、本来なすべきことに着手しないという弊害をもたらします。そのようにして時間が浪費されれば、それでなくても猶予時間の少ない地域再生活動は、「縮小の臨界」を超え、すべてが手遅れになってしまします。
【地域行政】
行政は、地域住民とともに近未来の予測を共有し、「行動を起こした場合と、起こさなかった場合」の近未来を冷静に直視し、常に残余時間の少ない「岐路」を意識する必要があります。人口縮小と税収縮小の現実を踏まえた上で、実効的な政策を整備する必要があります。政策が連動しない限り「クニ」的なものの達成はありません。いずれにせよ、行政と地域内の自立的地域運営組織(J・RMO)との緊密な連動は不可欠です。
そのような連動を目指す場合、従来の行政のように、予算の配分と消化(経営感覚の不在)、単年度での財政把握だけの手法ではなく、自立的地域運営組織が駆動することで、「本来かかるはずだった行政コストを削減させた費用効果という推測値の視点」が不可欠になります。この削減額を推測値として把握することは、「大きな削減効果」をもたらすための「小さな経費」に対して財政支出の根拠になります。この視点が欠損しているため、いまだ行政の財務課は、「住民活動支援は、ただ金が出ていくだけの単年度施作」としか感覚できないのです。地域運営組織が行政コスト削減に大きく寄与する現実の最も顕著な事例は、地域の高齢者の健康年齢の増進が挙げられます。それはつまり介護開始年齢を遅らせることに他ならず、これによる行政コストの削減額は莫大です。具体例をあげれば、新潟県上越市の中山間地にある、人口60人程度の集落では、介護開始が遅いことにより、ひとつの集落だけで、一世代(30年)ごとに、約七億円という行政コスト削減効果があることが明らかになりました。これは驚くべき数字です。
このように、行政には「何かがあるおかげで、使わなくて済んだ金」という財政指標が不可欠です。そしてそのような効果をもたらす大きなもののひとつは、地域運営組織(J/RMO)が担う「小さな公」活動の質と量にかかっています。この認識にたてば、地域運営組織(J/RMO)に呼応する多様な施作や、「活動基礎交付金」などの「制度」は、どこから見ても合理的な投資であり、実に大きな効果をもたらすことが認識できるはずです。
◆【集落の縮小】
平成時代に大合併した中小規模の市の、その周辺地域からは、若年層を主流とした、合併後の市街地への移住が増大し、周辺部の旧町村及び集落群は縮小に向かう。過剰縮小に陥った周辺部は、地域 再生活動そのものが不能となり、やがて来る消滅へ向けた、いわば「ホスピス的な住民活動だけが残存するようになる。一次産業従事者は激減し、集落群が保持していた自給力も失われて行く。 行政が行う「地域再生策」は、対症療法的、個別事象的なものに終始し、全体性、総合性を欠いたまま膠着する。行政は有効な手を打てないまま「地域再生施策」は名ばかりになり、実際には「ホスピス的施策」に変容する。そして集落群の縮小は加速する。
◆【地方都市の縮小】
地方都市からは、都会への移住がさらに増大し、地方都市は急激に縮小する。人口減と逆ピラミッド構造により、税収は激減し、基礎インフラの維持も困難になる。個性的な周辺部の縮小により地方都市の多くは無個性化する。有力産業を持つ地方都市以外の、いわゆる平凡な地方都市は、打つ手がなくなる。また無個性化ゆえインバウンド等の観光産業も喚起させず、都市からの移住も無い。
◆【集落の消滅】
周辺部の旧町村及び集落は縮小から消滅に向かう。多様な民俗文化・生存技能は消滅し、それがあったことの記憶も消滅する。
この時点で、地方都市の無個性化はさらに進み、地方都市は、どこへ行っても「同じ」という、文化の熱的平衡死に至る。そのような地方都市からは、さらに若者が流出し続け、多くの地方都市が財政破綻し、消滅に向かいつつ、ホスピス化する。
◆【地方都市の消滅】
地方都市から都会への人口流入により、大都市はさらに過剰肥大化し、様々な問題を恒常的に抱え込むことになる。階層化、貧困の固定化が深刻化し、それらの憎悪による個的テロの多発(獣の発生)、他者の背景化、無関心化(遮断社会)、反社会的人間の少グループ化(族化)などが多発する。 成功者と敗残者、富裕層と貧困層、高学歴と無学などが明瞭に対比される。少数の成功者と、多数の敗残者の混在によって、大都市はカオスに陥る。 持つものは金の力によって弱肉強食を主張し、持たざるものは暴力によって弱肉強食を主張する。ここに至って、大都市は「新たな野生」の場となる。 個人や家族がその場所からの「避難」を望んでも、向かうべき地方都市は無個性化し、もはや消滅しつつある。
◆法人の地域運営組織(J・RMO)が駆動する「クニ(KUNI)」
◆個性化した複数の「クニ」が、ひとつの市の中で自立的に連動する。
中小地方都市の再・個性化/文化の熱的平衡死からの脱却。
◆具体の土地+具体の人々+既存の地域組織+地域運営組織(法人)の連動=クニ(KUNI)
単独集落、町内会などが集合する人口500~2000規模のコミュニティ(明治の小学校区程度)を想定する。その範囲において、町内会や既存地域団体とは別に、新たに法人格を持つ地域運営組織(J・RMO/リージョン・マネジメント・オーガニゼーション)を育成する。この地域運営組織は、地域内での「つなぎ」と「総合化」を担い、かつ、そのマネジメント能力(経営力)によって「人・物・出来事」を主軸とする多様な「地域資源産業」を起こし、経済的な自力を持ちながら、それによって地域の「小さな公」の担い手となる。この地域運営組織は、各地域の独自の文化的個性を保全しながら、市役所と連動し、自立的な地域運営の重要な部分を担う。行政はこのような地域運営組織の「小さな公」労務に対して、活動維持のための交付金を支給する。(それはおもに、組織で働く専業スタッフの労 務費に充当される。このような組織の労務内容は、経験的な感覚として、「小さな公」3割、「地域資源産業7割という「3:7」の比率になる。具体の土地に具体の人々が存在し、さらにこのような地域運営組織(J・RMO)が駆動すると、そこは「クニ(KUNI)」となりうる場所になる。
◆このような、法人の地域運営組織(J・RMO)が果たすべき「12の機能」は以下である。
①日常生活の保全(高齢者対応) ②民俗文化の保全 ③高齢者健康年齢身長 ④小さな公共交通 ⑤児童Uターン学習 ⑥自然環境及び農地・林地の保全啓発 ⑦地域資源産業の創出 ⑧公的事業の受託 ⑨都市部からの往還者創出事業 ⑩統一窓口およびフィルター機能 ⑪地域の総合事務能力の拠点 ⑫人材育成機能
クニの発生により、再・個性化(差異化)された地方都市は、巨大都市と並列の関係になる。
都市からの往還者は「クニ」と「都市」を自由に行き来する。
可能性とチャレンジを求める人間は都市に向かい、人間らしい暮らしを求める人間は「クニ」へ向かう。
日本の集落数を考えれば、全国でおよそ6000箇所の「クニ」を創出することが可能。
6000箇所の「クニ」は、2万人から5万人の若者を雇用する潜在力を持つ。
地域運営組織・法人(J・RMO)による「クニ(KUNI)」の簡略図解例
任意の範囲設定による「クニ(KUNI)」の規模=小規模集落A+B+C+D+E+F+G+H=人口500程度~2000程度